2023/10/17

  つい先日まで焼けるように激しかった陽光は、気付けばただぽかぽかと体を温めるまで穏やかになっていた。朝起きて一番に日差しの強さを見てげんなりする季節が終わると、ほっとするような、冬の訪れの近さに焦るような、そんな感じがする。
 毎朝のランニングも随分と楽になった。走り出してしまえば気温すら忘れて走り続けられる私だけれど、走り終わったあとにやわらかな涼風に肌を撫でられたほうが心地いいのは当然のことだった。
 そんな風に、涼しくなった朝の日差しの中で今日もランニングを中断する。たったったっ、と淡々と続く足音が耳に入るようになった頃がやめ時だ。
 いつも休憩に寄る、ベンチと砂場と鉄棒しかない小さな公園には、いつも通りたくさんの鳩が集まっている。その隙間を縫ってベンチに座り、水筒を口に含んだ。その度に私は、氷をいくら入れてもあっという間にお湯になってしまう季節は終わったのだと、まだ驚いてしまう。強烈な夏は、なかなか私を解放してくれなかった。
 ふぅ、とひとつ息を吐く。
 餌欲しさに足元に群がる鳩を無視して空を見た。
 激しさを収めた陽光は木々に遮られて、やわらかな光だけが私に届く。それは少し寂しい色をしていて、秋がやってきたのだと一番わかりやすく私に教えていた。
 この走りやすい季節は一瞬で終わる。毎年そうだ。あっという間に秋は過ぎ去って冬になる。冬になれば、寒さに肌を切られながら走ることになる。秋はそんな私を憐れんで、冬より寂しく映った。
 目を閉じる。優しい光をまぶたの向こうに感じる。
 寂しく映るのに、秋は私を引き止めてはくれない。名残惜しさの欠片もなく、休んだら早く帰りなさいとばかりに風が木々を揺らした。
 仕方なく私は立ち上がり、鳩たちを追い立てながら公園を出る。出口で一度振り返って、紅葉といちょうの入り混じった景色を見た。
 やわらかな光に照らされた黄金色の景色は、私を受け入れる隙間もなさそうだった。
 邪魔者はさっさと帰ろうか。私は帰路を走り出す。ちらりと時計を見れば、少し予定より遅い時間を差していた。
 このままじゃ学校に遅刻してしまう。私は慌ててスピードを上げて、そのうち秋への寂しさも置いていった。
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