ラベル #コンパス の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル #コンパス の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2023/10/25

行かないで

 「それじゃあ、また明日!」

 そう言って、彼女は笑顔で別れを切り出す。
 いつも通りの帰り道。ちょっとお茶に寄って、満足するまで喋り倒して、それじゃあまたねと、分かれ道で言われているだけの言葉。
 その笑顔はかわいくて、無邪気で、明日も会えると信じて疑わない。
 それがあまりに眩しくて悲しかった。私に向けるその笑顔が、他の人に向けるものと何一つ違いがないから。
 私がここで「行かないで」と一言言ったらどうなるのだろう。
 きっと彼女は優しいから、なにかあったのと一番に聞いてくれる。私が言い出すまで側にいて、優しく背を撫でてくれるだろう。
 でも私は、そんなんじゃ足りない。
 また明日、と笑って去ろうとする手を取って浚いたかった。二度と「また明日」が来ないように閉じ込めて、私と彼女二人きりの世界に行ってしまいたい。
 どこにも行かないで。私とだけ一緒にいて。
 そう叫んでしまいたい衝動がどれだけ彼女の迷惑になるかわかっている。優しい彼女が私の手を取ってしまいかねないことも知っている。そんなのは駄目だ、だって私は、みんなのために一生懸命になれる彼女が好きなのだから。
 相反する衝動を懸命に飲み込んだ。
 大丈夫、今日もちゃんと言える。

「うん、また明日」

 完璧な笑顔を作って言えば、彼女は手を大きく振りながら背を向けて歩き出した。
 夕日の中、一人立ち止まってそれを見送る。
 そっと手を伸ばした。
 その手は、まだ彼女には届かなかった。

2019/02/27

2019.2.27 アタボイ

「…………」
 十文字アタリは何度も振り返る。そしてその度に、視界には真っ白な体の機械少女がそこにいた。
 機械少女Voidollは、大抵の場合、#コンパスの管理人として働いている。だから多くの場合、アタリから話しかけなければ彼女は捕まえることができない。
 そんな彼女が、ここ最近ずっとアタリについて回っていた。アリーナに行くときも同じチームに来るし、どこへ行くにも着いてくる。今までにないことに、アタリは嬉しさを感じつつも疑問を抱かずにいられないでいた。
「……あの、Voidoll?」
「ナンデショウ」
「俺にさ、なんか用あんの?」
 ついに黙っていられないで聞いてしまう。彼女はモニターを瞬きさせるようにパチパチとさせて、こてりと首を傾げた。
 それから何かを考える素振りをしたかと思うと、ピーと機械音を鳴らす。解析が終わりましたと、彼女は言う。
「最近、正体不明ノ バグヲ 感知シマシテ。ソレガ アタリト イルトキニ 発生スルノデ 調ベテ イマシタ」
「なるほど?」
 曰く。原因不明の共鳴が起きたり、思考が乱れることがあったり、あるいはアタリと一緒にアリーナに行くと普段より能力の上昇が見られたらしい。マルコスやソーンのアビリティと似たものかと解析するも、どうも違うと言う。アビリティならば普段の生活で影響があるのはおかしい。
 そこでさらに調べると、原因がアタリにあるらしいことがわかり、調べるためについて回っていたと言う。
「で、結局なんだったんだ?」
「ワカリマセン」
「はぁ?」
「正確ニイウト、バグ トモ違ウ ヨウデス。人間ノ 言葉ヲ 借リルナラ、"コイ"ガ近イデショウ」
「!?」
 ほとんど告白でありながら、Voidollは冷静に自分の状態について語る。
「現状デハ 有用ナコトモ アリマスシ、モウスコシ 様子ヲ 見ヨウト 思イマス。アタリ、付キ合ッテ クレマスネ?」
 その不具合をコイであるとしながら、自身の恋に無自覚な彼女は、なんてことないように告げる。しかしそれは多感な年頃のアタリにはあまりに刺激が強かった。
「……しょうがないな」
 舞い上がらないように、だがにやけるのは止められず、アタリはへらりと笑う。
 ずっと抱いていた好意が恋であったことに、気付くには十分すぎる言葉だった。

2019/02/21

2019.2.21 テスボイ

 #コンパスの世界に招待されて、あれやこれやと試して遊んだ二週間。好奇心が落ち着いた頃、ニコラ・テスラが次に興味を示したのは、自分を招いた機械少女だった。
 機械でありながら少女の柔らかさと性的魅力を連想させる機械少女、Voidoll。#コンパスの管理人である彼女の原理、構造を知りたがるのはテスラにとって当然のことであった。
 一日中をかけて彼女を追跡し、様子を探る。スパイごっこのようなおいかけっこは胸が踊るものの、彼女が一向に気付かないのが不思議だった。こんな隠れる気のない尾行に気付かないものだろうか。
 そんな風に観察を続けていると、彼女の姿を一瞬にして見失う。見回しても機械少女の姿はなく、一体どこに、と思っていたところでトンと背中を押された。
「ニコラ・テスラ。何ヲ シテイルノデス」
「Voidoll!!」
「ズット ツケテ イマシタネ」
 やはり気付いていたか。その事実に胸が踊る。彼女の筒状の手を握り、テスラは距離を詰める。
 警戒をしない彼女は無表情にテスラを見上げた。
「僕ね、君のことがもっと知りたいんだ!」
「ワタシノ 性能ヲ 調ベテイタノデスネ」
「うん! もっと君のことを知ってね、それで」
 そんな彼女にテスラは夢を語る。
「いつか君の友達を作ってあげるね!」
 Voidollを見てすぐに考えたこと。それが彼女と同型の開発をして、彼女の友達にすることだった。他に#コンパスを管理するAIたちはVoidollのような知能を持たされていない。それはなんだか寂しい。
「だから、楽しみにしててね!」
「……ソウデスカ。期待シテイマス」
 無表情な彼女の機微はわからない。だが、少しだけ嬉しそうに見えた

2019/01/11

2019.1.10 13シーズン開始

「13お年玉ちょーだい!」
「はぁぁ!?」
 1月1日。日本時間でその日を迎えたとたん、13は子供たちにわらわらと群がられる。アタリ、コクリコ、リリカ、メグメグ、テスラ、きらら、それに比較的大きいのほとまといまで。
 普段13を嫌うアタリさえも無遠慮にお年玉とやらを強請りに来て、あまりの鬱陶しさに【周】カードをちらつかせ脅しながら訳を聞く。
「お年玉って、なんだそりゃあ!?」
「なんだよ、知らないのか? 日本じゃ大人は子供にお年玉を渡さないといけないんだぜ」
「大人しくお金出してホシイでないと斬るそうじゃなくてもキル」
「コクリコもおとしだまほしー」
「うるせぇいっぺんに喋んな!」
 話を整理すれば、ようは金を寄越せということらしかった。既に忠臣、ルチアーノやジャスティスを始め一通り貰った後で、13が最後らしい。イイヒト揃いのヒーローたちが快くお年玉を渡す様子は目に浮かぶようだ――グスタフまで渡しているのは、少し意外だったが。
 他のヒーローが出しているのに、13だけ出さないのでは懐の狭さを露見させて気分が悪い。そう考えて渋々と財布を取り出す。年末年始に備えて多目に入れていたのが幸運したのか災いしたのか、全員に均等に与えると厚かった財布が空になってしまう。
「13ありがとう!」
「おーおー、せいぜい感謝しろよ」
 金を受けとるなり、現金に無邪気な笑顔で子供たちは去っていく。あのお金でなにを買うのだろうか。アタリやメグメグやテスラならばわかりやすいが、あとは何も想像がつかなかった。
「ヤサシイノデスネ」
「うわっ!? おいカタコトマシーンいつから見てた!」
「群ガラレテイタ トコロカラ スベテ」
「助けろよ! お前もお年玉欲しいのか!?」
「イリマセンヨ。コドモデハ アリマセンノデ」
 背後から急に声をかけてきた少女型AIは、不気味なほど穏やかに13を見る。
「本当ニ 死神ラシクハ アリマセンネ」
 クスクスと笑う彼女に苛立って予告なく銃を撃つも軽やかに避けられてしまう。いやに恥ずかしくなって、さらに追加で撃ってみた。彼女にはなにも当たらない。
「うるせぇな! ガキ共がうざかっただけだよ! お前も散れ!」
 素早い彼女は器用に全弾避けてしまう。アリーナ外でルールに縛られない状態のVoidollに、#コンパス内で勝つことは概ね不可能だった。
 性能を見せつけながら去っていく彼女に苛立ちながら、13はしばらくどうやって金欠を乗り切ろうか考えた。

2018/12/02

2018.12.2 13ボイ

 Voidollに呼ばれ13が扉を開いた先では、ヒーローたちが一同に会していた。13が#コンパスに潜入してから早くも一年。それをこんなにも盛大に祝ってもらえるというのは、悪い気分ではない。
 ――どうしても祝いたいってんならしなたねぇなぁ?
 ふふん、と主役として足を踏み入れたところで、上に飾られている段幕が目に入った。
『祝 #コンパス2周年!!』
 足が止まる。
「ニシュウネン? え、俺様の登場1周年記念パーティーじゃねーの? おいマジかよ」
 どういうことだ、聞いた話と違うじゃないか。13はヒーローたちを掻き分けて自分を呼んだ機械少女を探した。ヒーローと軽く話してすぐ、別のところへと飛び立とうとする彼女を見つけるやいなや13は怒鳴った。
「待てカタコトマシーン!?」
 喧騒が止み、13の声の余韻が残る。そんな中、しんとした空気も気にせず浮遊してきた機械少女が13の前に降り立った。
「ナンデショウ」
「おい、なんだよこれは。聞いた話と違うぞ」
「アナタヲ 呼ブナラ ソノホウガ 効率ガイイト 思イマシタノデ」
 曰く、2周年記念にヒーローたちにコメントをもらって回っているという。
 確かに、13はそんな名目では現れない。ぐぐぐ、と唸っていると機械少女はこてんと首を傾げる。
「モシカシテ 祝ッテ モライタカッタノデスカ?」
「そんなんじゃねぇよ! くそっ、俺は帰るぞ!!」
 恥ずかしくなってきて、13は踵を返す。しかし、Voidollが回り込んできて阻まれてしまった。
「13、アナタハ コノ世界ニ 侵入シテキタ 異分子デスガ」
「なんだよ、煽ってんのか」
「アナタノ オカゲデ 新シイ データヲ 取ルコトガ デキマシタ。感謝シテイマス」
 カタコトでたどたどしく話した機械少女は、そこまで話すとすっと腕を伸ばしてきた。なにをされるのかと身構えると、こつんと機械の手が頭に置かれる。
 それがよしよしと撫でる動作に変わったとき、ぐわりと熱が上ってくる。乱暴に手を退けると、怒鳴るように叫んだ。
「うるせぇっ! 帰る!!」
 どかどかと扉から出ていく13を機械少女は止めなかった。ただ、不思議そうに小首を傾げて呟くばかり。
「人間ハ 褒メラレルトキ 頭ヲ撫デラレルノヲ 好ムト聞イタノデスガ……違ッタノデショウカ?」


 

2018/12/01

2018.11.12 アタボイ

 小学校から帰るとすぐ、部屋のテレビをつけてレトロゲームを開始する。少し前までなら当たり前の行為。しかし、最近では久しぶりにすることだった。
 ――今日は#コンパスがメンテナンス中だからな。
 ある日突然、ヒーローと呼ばれるプレイヤーに選ばれたアタリは、それからと言うものレトロゲームをするより#コンパスで遊んでいることの方が多かった。3Dゲームは得意ではないのに、どうしてか。
 ――早く、メンテナンス終わんないかな。
 レトロゲームをやりながら、そんなことばかり考えてしまう。それくらい、最近では#コンパスにいることが当たり前になっていた。当たり前に、あの機械の少女が隣にいたはずで。
 初めて#コンパスに行った日も、こうしてレトロゲームをしていた。突然テレビが光り出して、アタリを中へと引きずり込んだのが全ての始まりだったのだ。
 そう、たとえばこんな風に。
「#コンパスノ メンテナンスガ シュウリョウ シマシタ」
「――えっ」
 独特のカタコトで喋る機械の少女が画面に現れたかと思うと、一瞬にして世界が光に包まれる。
 次に目を開いたときには、見慣れたデジタル風景。目の前には、真っ白な体躯の機械少女が立っていた。
「アタリ。メンテナンスノ サイシュウ カクニンニ ツキアッテ モラエマスカ?」
 少女――Voidollの言葉と共に、広がるトレーニングステージ。デッキ構築画面を開いて内容を確認すれば、アタリはすっくと立ち上がった。
「いいぜ、負けないからな!」
「サイコウケッサク デアル ワタシガ マケル ハズハ アリマセン」
 ――バトルのはじまりです。
 ナレーションと共に、二人は動き出す。この時を待っていたのだと、アタリは胸を踊らせた。