2019/02/01

2019.2.1

 2月に入ると、それまでうっすらと感じていた甘い香りがさらに濃くなる。ただ歩いているだけでも目に入る砂糖の塊たち。そのせいで空気まで甘ったるくなるのはいただけない。
 バレンタイン。業者によるプロパガンダのために町中が甘くコーティングされるこの時期は、甘いものが苦手な私にとって苦しいものだった。
「はぁ……」
「おはようございます。元気ないですね?」
「バレンタイン近いなって思うと憂鬱で……」
 会社に着くなり、甘い匂いに疲れた体を椅子に沈ませる。後輩が入れてくれたコーヒーがちょうどいい回復薬だった。
「この時期空気までチョコの匂いするじゃない?」
「ああ。甘いですもんね、チョコ。俺も苦手です」
「あれ、そうなの。でも毎年結構もらってない?」
「はは……」
 後輩は曖昧に笑う。社内でも比較的若く、顔もいい方の彼はアイドル的存在に仕立てあげられやすかった。だから、毎年バレンタインには女子社員から色々ともらっていた記憶があったが。
 甘いもの好きじゃなかったのか。私も彼に義理チョコのひとつくらい渡したことがある。少し反省しないといけなかった。
「じゃあ今年はおせんべいでもあげるわ。おすすめのやつ」
「え、本当ですか!? うれしいです!」
 ぱっと笑顔になった後輩は、始業の合図にうきうきと自分の席へ戻っていく。そんなに甘いものに辟易していたのか、かわいそうに。甘いもの苦手同士、もっと気を使ってあげないとな、なんて胸に刻んだ。


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