2019/02/06

2019.2.6

 その日の授業は、人食い屋敷の近くで行われていた。かつて大量虐殺があったというその屋敷の周囲には霊が多く住んでいる。多くは屋敷に囚われたままの哀れな犠牲者たちで、危害を与えてくることはない。だから一年生の授業でも構わず行われている。
 そう、教えられていた。
「キャアアアアア!!!」
 周囲が悲鳴に包まれる。屋敷の方から正体不明の霊が女生徒に襲いかかろうと飛び出してきたのだ。逃げ惑う生徒たちにコルネリアもまた一緒に混乱しながら、なんとか頭を回す。
 ――あなたの瞳は魔除の瞳。
 言い聞かせられてきた、一族に受け継がれる魔除の瞳。コルネリアは必死に集団の中から飛び出した。
 霊は、わたしには手出しできない。
 大きな太陽色の瞳に霊を映す。飛び出したコルネリアに霊が怯んだ。今のうちに、反撃しなきゃ、と杖を出した瞬間だった。
「Heiliges Feuer!」
 力強い呪文と共に、目の前を青い炎が覆う。霊を焼く美しい青の炎は轟々と燃え上がるのに、不思議と熱さを感じない。
 とすん、と驚きに尻もちをつく頃にはすっかり霊は焼ききられ、蒸発するように成仏していった。
「コルネリアさん、大丈夫かい? 怪我は……ないね」
「せ、せんせい……」
「まったく、なんで飛び出したんだ。僕が通りかからなかったらどうなってたか」
 優しい表情のアイザックが、心配そうに覗き込む。その手には杖。
 ――今のは、アイザック先生が。
 一瞬にして霊の魂を焼き尽くす、青い業火。サラマンドラでも青い炎を出すのは一部の高位な魔法使いでなければ難しいと聞く。
 ――僕の家は……。
 いつか聞いた、アイザックの家系の話を思い出す。目の前にいるのは本当にすごい人なのだと、思い知らされた。

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