2019/02/14

2019.2.13

 結局、佐藤くんには話しかけられないまま、わたしは一人で帰路を歩く。ベルトコンベアのように細い歩道をところ狭しと生徒たちが歩く流れから外れて、途中で本屋へと道を逸れた。
 ノートが切れていたのを忘れずに寄ることができたのをホッとしながら、最上階の文具フロアへと上がる。たくさんの文具が揃っているわりにいつも人が少ないここでノートセットを買い、早々に帰ろうとしたところで足を止めた。
 前にも見た万年筆売り場で、不似合いに佇んでいる男子生徒が一人。
 ――佐藤くんだ!
 誂えたように一人きりの佐藤くんだった。数ある万年筆のうちの一角を眺めている彼に、どくどくと鼓動が早まる。話しかけたらいいのに、足がすくんで動かない。その場に張り付けにされたかのように立ちすくんでいると、やがて佐藤くんが顔を上げる。
「あれ、遠坂じゃん」
「さ、佐藤くん。奇遇、だね……」
 お礼言うんでしょ、万年筆のこと聞くんでしょ、と心の内で叱咤しても上手く言葉が出てこない。どう話しても突拍子もないように感じてしまう。
「万年筆、見てたの?」
「ああ、新しいの欲しくてさ」
「え、でも他にも持ってるよね」
「え、うん。見せたっけ?」
 佐藤くんの不思議そうな表情にやらかしたと顔が熱くなる。こんないかにも見てましたみたいな話がしたかったんじゃなくて。
 もう全然わかんない。男の子ってなんて話しかけたらいいの。
「えと、その、……あのさっ、このあと時間ある!? 喫茶店でも、どう…………」
 混乱のままに言葉を発して、さらに混乱して。ああなんでこんなに誤解されそうな言葉しか出てこないんだろう。佐藤くん明らかにきょどってきちゃった、そりゃそうだよこんなのデートに誘ったようなもんじゃん。
 しかし佐藤くんはあっさりとOKしてくれてしまう。しまった、逃げ道がどこにもなくなってしまった!
 たくさんの後悔に苛まれながら、知り合いに見つからないことを祈りつつ、わたしはせっかくの機会を逃さないことに決めた。

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