仕事帰りの薄暗い酒場にて、フラン・M・エヴァンズは一人酒を飲む。度数の低い綺麗なばかりのカクテルは、フランのことを酔わせてはくれない。だからと言って、不法に作られた酒なので度数の高いものは恐ろしくて飲めない。なにより女一人で下手に酔えば何をされるかわからない世の中だ。仕方なくフランはいつもジュースのようなカクテルばかりで自分を慰めていた。
通う店を変えてから一ヶ月ほどが経った。あれから馴染みの顔も出来て、ようやく通いやすくなってきた。とはいえ、フランの心は未だ薄暗く、あの日の旅路を神に懺悔するばかり。
どうしたら、彼らと再び元に戻れるだろうか。いや、フランは今でも彼らと友人でいたいのだろうか。そんな考えばかりがぐるぐると渦巻いているから、酔えるものも酔えなかった。
「…………!!」
そう物思いに耽っていると、喧騒を貫いてひとつの音がフランの元へ届く。耳慣れたテナーサックスの優しい音。それで奏でられるジャズは、友人の一人――リッキー・ニーヴスの十八番だった。
バッと曲の聞こえる方へ振り向くと、そこには知らない男の姿だけがあった。あの可愛らしいぽっちゃりとした、背の低い男ではなかった。そっと目線を逸らして、残っていたグラスの中身を飲み干す。それから、いつもより少しだけ度数の高いものを注文した。
リッキー。明らかに異質な、自身を害するだろう冒涜的ななにかが側にいる中で、黄金の蜂蜜酒にばかり気を取られていた愚かな友人。彼はなにをしているだろうか。旅行の後、再びあそこに赴いて怪物に囚われたりなどしていないだろうか。
友人への心配と恐怖が込み上げてきて、息が苦しい。出された酒を煽って無理矢理に流した。それから、聞こえてくる優しいジャズから逃げるように、フランは店を後にする。早く帰りたい。そうでなければ、あのおぞましい夜を思い出してどうにかなりそうだった。
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2019/01/23
2019.1.22
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