2019/04/21

2019.4.19

 おじいちゃんの家から帰ったあと、春休みが終わるまではとても早かった。おじいちゃんに調整してもらった万年筆を使うのがあまりにも楽しくて、毎日たくさん勉強していたら、いつの間にか宿題も春休みも終わっていたのだった。
 新学期、三年生になる春を迎えて学校の門をくぐる。この時期に感じる不安が、今日は不思議となかった。
「おはよう!」
「おはよう、今年も同じクラスじゃん!」
 去年も仲がよかった友達と挨拶を交わして席に付く。今年のクラスは友達もそこそこいて、楽しい一年になりそうだった。
「あれ、その胸のやつなに?」
 気になったのか、友達が不思議そうに胸ポケットを見る。ボールペンとは様子が違うそれを、わたしはもう隠そうとは思わなかった。
 堂々とポケットから引き抜き、深い青色のペン軸を見せる。今度こそ、ちゃんと言える。
「万年筆。おじいちゃんにもらったの!」
 いいでしょう、と話すのに、とても時間がかかった。だけど万年筆のことを、おじいちゃんのことを知った今なら恥ずかしがらずに言える。
 友達は少し驚いたような顔をしたあと、笑って答えてくれる。
「いいね、かっこいいじゃん」
 ああ、と。こうやって話せるようになりたくて、わたしは万年筆を好きになりたかったんだ。
 趣味もなくて、臆病で、人と違うことが怖かったのに。ちゃんとこれが好きだと言えるようになった、言うようにしてくれた万年筆。
 これのために頑張ってよかったと、万年筆をきゅっと握りしめた。

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