2019/04/15

2019.4.14

 お礼は、言い切った。
 ばくばくする心臓を抑えながら、おじいちゃんの様子を伺う。こちらを見ないままずっと作業をしているのを見て、これ以上はなにもないのかな、と少し残念に思いながら帰ろうとした。
「……じゃあ……」
「万由梨ちゃん」
「は、はい!」
「万年筆を持ってきなさい」
 踵を返しかけた時に、はじめておじいちゃんが名前を呼ぶ。なんだろう、なにかしたかな。怒られるかな。
 はじめに貰ったとき、万年筆を使うことを怖がったこととか。友達に恥ずかしくて万年筆を見せられなかったこととか。
 万年筆を見せたら、万年筆へのわたしの迷いが全部ばれてしまいそうで躊躇った。それでもなんとか、おじいちゃんの元へと辿り着く。
「あの、これ……」
 懺悔をするように、そっと差し出す。
 青い艶やかな軸の万年筆。思えば貰った誕生日からは四ヶ月も経っている。そんなに長い間、この万年筆と和解する方法を模索してきたのだと思うと、不思議な気持ちだった。
 おじいちゃんは万年筆を手に取ると、蓋を開けてペン先を見る。そうかと思えば軸を開けて、インクの様子も見始めた。
 そんな検分を、少しして。分解した万年筆を元に戻すと、今度はどこからか紙を持ってきて空いてる机に置いた。
「ちゃんと使っているようでよかった」
「う、うん」
「少し書いてみなさい。万由梨ちゃんに合うように調整しよう」
「…………!」
 おじいちゃんはぶっきらぼうに、そう言う。
 その言葉を聞いて、わたしはなんだか泣きそうになってしまった。ずっと万年筆を怖がっていたのを許されたような気がして。これからも万年筆を使ってもいいのだと、赦されたような気がして。

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