万年筆を握って、小屋の前に立つ。昨日はおばあちゃんが居たけれど、今日はわたし一人。心細くて仕方がないが、そっとドアノブに手をかけて、回す。ギィ、と音を立てて扉が開いていく。その先で、おじいちゃんが一人作業をしていた。
「…………ぁ……」
「……どうした」
声をかけるのに悩んでいると、おじいちゃんが口を開く。わたしのことは見ないまま、手を動かし続けて。
その固い声音に怯えながら、なんとか言葉を絞り出す。
「あ、あの、おじいちゃんが、ここで仕事してるって、聞いて……。ま、万年筆を作ってるなんて、知りませんでした」
おじいちゃんは返事をしない。話し方はこれで合っているのだろうかと不安になる。
ぎゅっと胸元に抱いた万年筆に力を込めて続けた。
「わたし……万年筆、おじいちゃんからもらったやつで初めて見て。あの、大事に使ってます。万年筆で勉強、したり……と、友達? も、できたの」
お礼を言うんだ、と意気込んで、色々考えてきたのにいざとなると全部吹き飛んでしまう。それでも途切れ途切れに最後まで続けた。
「最近は、万年筆のこと好きになってきてます。特に洗ってるとき、インクが溶けるのを見てるのが、好きで……。あの、万年筆をくれて、ありがとうございました!」
――言い切った!
こっちを見ないおじいちゃんに一方的につらつらと述べきる。伝わっただろうか。でも、わたしは言い切ることができた。深い達成感がわたしを包む。ずっと言わなければいけなかったことだった。それを達成するのは、佐藤くんと話したときよりもずっと緊張していた。
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2019/04/10
2019.4.10
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