机に一枚、小さな便箋。一時間悩んで選んだ、かわいすぎないくらいのシンプルな用紙。それにHBのシャープペンシルで薄く文字を書こうとする。
書き出しはどうしよう。香川くん? 佑樹くん? それとも香川様? 拝啓から書いた方がいいんだろうか。なんて、一行目から躓いて文章が決まらない。そんなに畏まる必要もないけれど、教養のない女だと思われるのは絶対に嫌で。
手紙の書き方を検索しながら、なんて書こうかと頭を回す。そうこうするうちに疲れてきて、動画を見始めたりしてあっという間に一時間が経ってしまう。はっとやるべきことを思い出して、白紙の便箋に向き合うと、やっぱり文章が思い付かなくて頬杖をつく。
――いいんだけどね、どうせ出さないんだし。
書こうとしていたのは、所謂恋文。本人に渡すつもりはないけれど、いい加減誰にも言わないでいるのは耐えきれなくて、せめて少しでも吐き出そうとして思い立ったものだった。
だから本当は気負う必要なんかないんだけど――それでも、好きな人への手紙に手抜きなんて出来なくて。
「はぁ、好きだって言えちゃえば楽になるのかなぁ」
今はとにかくこの苦しい気持ちから解放されたい。好きなままで、でもバレないで、落ち着いた気持ちに戻りたい。こんなに苦しいといつか胸が潰れてしまいそう。
両想いなんていらないから、どうか今すぐ楽にさせてほしい! そんな気持ちを、手紙さえも受け止めてはくれないみたいだった。
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2019/02/11
2019.2.11
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