2019/06/11

2019.6.11ぼくも傘がない→ハナサカステップ→ゆらゆら花火

 思い出をひとつひとつ振り返ってみる。
 いつも雨の日早退法の話を一生懸命していたこと。雨が降るたびに熱心に雨うぜーと呟いていたこと。話を振ると大体何日に雨が降るのか教えてくれたこと。そこまで行くといっそ雨が好きなんじゃないかなと思っていたこと。そのくせ傘を持ち歩かなくてよく濡れていたこと。
 昨日のことのように思い出せると思ったのに、大分忘れてしまっている自分にショックを受けた。毎日笑って聞いていたあいつの話の半分も覚えてなかった。それは自分が薄情とかそんな話ではなくて、終わりが近付いている合図だとわかっていた。
 あいつは季節外れに咲いた春の木に灰を撒いている。それに合わせてつぼみがまたひとつ花開くものだから、なんだか花咲か爺さんみたいだなと眺めた。
 花は綺麗だけれど天気は悪い。仕方ない、もう梅雨に入るんだから。あいつの嫌いな雨の季節が来る。それなのに灰を抱えてあんなに無防備に外にいるなんて、全部流されちゃうぞ。呆れて、声をかけてみても無視された。なにを見ているのかな。同じ景色を昔は見られたのに、もう見れないのかと思うと寂しかった。
 梅雨が明ければ夏が来る。最後の夏だ。
 ずっと雨が降っていてくれたらいいのにな。あいつは嫌がるだろうけど。そんな灰なんて撒いてないで、ずっと雨の中に閉じ込められていればいいのに。
 そこまで考えて、やめた。あいつは雨の中、傘を忘れてそのまま走っていっちゃうやつだから。
 いい加減宿題を終わらせないといけない。あの灰がなくなる前に。覚悟を決めて、こっそり風鈴の箱を出した。




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