おばあちゃんに連れられて、こっそり外に出る。向かったのは、家の隣に建っている小さな小屋。てっきり納屋だと思っていたその中に入ると、幾つかの机と散らばった木屑。それからいくつか並べられた金属と、完成された万年筆があった。
「ここは……」
「おじいちゃんの仕事場」
「だからおじいちゃん、万年筆をくれたの?」
「おじいちゃんが作ったやつではないけどね」
初めての万年筆として、気軽に使えるくらいのいいもの。それを専門家の目できちんと選んで贈ってくれたのだ。
そう聞くと、あの時好きになってみようとしてよかったと思う。おじいちゃんにとって、きっと万年筆はとても大切なものだ。わたしは薄情な孫だが、おじいちゃんの大切なものを無視するような人間にはなりたくなかった。
「……おじいちゃんの万年筆、どれも綺麗」
「そうでしょう? おばあちゃんもおじいちゃんの万年筆大好き」
おじいちゃんの作る万年筆は、少し珍しい木軸のものだ。漆塗りのものもあるが、木軸のものは温かみがあって使ってみたいな、と思うほど素敵なもので。
「わたし……おじいちゃんにね、万年筆のこと話そうと思って来たの」
「うん」
「でもおじいちゃん、少し怖くて……」
「大丈夫よ。無口だけど、とっても悩んで万年筆選んでたくらい、おじいちゃんも万由梨ちゃんのこと大好きだから」
おばあちゃんが笑ってくれるのに、なんだか勇気が湧いてくる。明日こそ、おじいちゃんに話しかけてみよう。そう決断すると、おばあちゃんも協力すると言ってくれた。
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2019/04/06
2019.4.6
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