「絶対許さない」
「ごめんなさい……」
包帯に巻かれた右手を抑えながら、彼女は頬を大きく膨らませる。僕は彼女が目線も合わせてくれないのに心が折れつつ、何度も何度も平謝りをしていた。
そもそもの発端は、僕が刃を出しっぱなしにしていたカッターに、彼女が気付かず上に手を置いて怪我をしてしまったこと。薄皮を切った程度で怪我は酷くなかったが、範囲が広かったために利き手を上手く動かせなくなったのだ。
怒るのも無理はない。わかっている。しかしここでどうにか折れてもらわないと、このままじゃ戻ることもできない。医務室の人からの視線も痛かった。
「なんでも言うこと聞くから……機嫌直して……」
「なんでも?」
「あの、できる範囲でお願いします」
低く聞き返されたのに恐れを覚えて、できる範囲でと付け加える。顔をしかめられたが、本当になんでも好き勝手に言われたら敵わなかった。
さあどう出る、と警戒する。
「……し」
「はい?」
「お寿司食べたい。今夜」
彼女は少しだけ遠慮がちに、そう要求する。
寿司、……寿司か。まあ回転寿司くらいなら、とほっとしていると、きっと彼女に止めを刺される。
「もちろん回らないやつよ!」
「ひぇ」
「今夜、仕事が終わったら! 覚えておきなさい!」
そんな死刑宣告に背筋を凍らせる。今日、給料日前日なんですけど。でも慰謝料取られるよりは安いんだろうか。色々考えながら、去っていく彼女の背中を見送る。
まぁ、自分も食べるんならなんとか頑張るかぁ。
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2019/04/24
2019.4.24
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