2019/01/25

2019.1.25

 豊かで美しい紫の髪を踊らせ、扇情的にスリットの入った修道服のスカートを揺らして女は教会を進む。メアリアン・バステス――その美しいエルフの女は、ひとつの赤い実を片手に、目当ての神父の元へと歩いた。
「ああ、いたいた。神父様!」
「メアリアン。どうしたんだい」
「神父様、キュア・ディジーズ使えましたよね?」
 キュア・ディジーズ。高位のプリーストが行使することができる神聖魔法の一種。毒を消すその魔法を、レベルの低いメアリアンはまだ使うことができない。
 神父に持っていた赤い実を見せて、メアリアンはお願いする。
「これ食べてみたいんで使ってくれません?」
「お前はどうしてそうやって命を粗末にするんだ!?」
「だってどんな味か知りたいじゃないですか! 学び、考え、実践せよ。キルヒア様の教えの通りですわ」
「キルヒア様も命を危険に晒せとは言わん!」
 怒り止める神父に対し、メアリアンは止まらない。
 毒を持つことで有名な木の実。不意にそれがどんな味で、どう苦しんで死ぬのかが気になった。効能だけなら辞典でも調べられたが、味までは書いてない。知らないことは、知らなければならない。知識の神キルヒアを信仰するメアリアンにとって、それは当然の帰結であった。
 しかし神父は、常日頃からそうして身を呈してでも学ぼうとするメアリアンの姿勢を諭す。
「どんなに治せるからって無理をするものじゃない、考え直せ」
「危険のないところに新しい発見はありません。私は知りたいんです! いただきまーす!」
 制止を無視して、メアリアンは勢いよく木の実を食べる。想像と違って味は甘く、思ったよりおいしい、と思ったところで体が痺れていくのがわかる。即効性か、と焦ったところで神父の魔法で毒が抜かれた。
「もう34なんだから落ち着いてくれ……」
「あー助かった。ありがとうございます神父様。でもエルフの34なんて子供と変わらないので、落ち着くつもりはないでーす」
 毒を食らってもけろりとしたメアリアンは、あっけらかんと礼を言うとすぐに教会から出てってしまう。
 メアリアン・バステス。キルヒアに仕える彼女にとって、世界を一つでも多く知ることこそが使命だった。

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