佐藤くんに話しかけてみよう、と決めたわたしはそれから何日か佐藤くんを観察していた。今まで存在さえ意識したことがなかった人なので、本当になにも知らなかったのだ。
佐藤くんは、クラスでは目立たない男の子だ。大体友達と一緒にいるけど、騒がしくもなく、大人しくもない。だからあまり印象が残らなかったのか、と目で追いはじめてようやく気付く。いつからか面倒くさくなってクラスメイトを覚えるのをやめてしまった弊害だった。佐藤くんはわたしを知ってたから、彼はちゃんと覚える努力をしている人らしい。
授業中に目をやってみると、確かに前に見せてもらった万年筆を使っていた。あんなに堂々と万年筆を使えるなんて、すごいなぁと見ていると、彼がペンを交換する。それがまた別の万年筆で、わたしは思わずぎょっとした。
――え!? もしかして万年筆何本も持ってるの!?
万年筆のインクには色々種類があるというのは知っている。でも何本も持ってたら、それこそ使いこなせなそうだなという感想だったわたしにとって、佐藤くんのそれは驚きだった。まるで色ペンを使うみたいに万年筆を使いこなす佐藤くんは、どうしてあんなに万年筆を持っているんだろう。
万年筆は安いものでも普通のペンより割高だ。学生が手を出すには躊躇する値段なのは間違いない。それでも日常的に万年筆を使う理由って、なんだろう。
佐藤くんに聞きたい気持ちがむくむくと湧いてくる。次に彼が一人になったときを見計らって、勇気を出して色々聞いてみないと。
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2019/01/20
2019.1.19
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