2019/01/16

2019.1.16

 フラン・M・エヴァンズは一人酒を煽る。周囲は酔ってどんちゃん騒ぎをしている男ばかりで、フランのように一人で飲んでいる女は見つからない。
 この禁酒法が敷かれた世の中で、女が、それも一人で酒場にいるようなことは滅多にない。それこそ、こういった場所を根城にしている娼婦などがせいぜいだろう。
 しかし職を持ち独立しているフランは違う。自分で仕立てた流行のフラッパー風のスカートで、独立した女性としてここにいた。嗜む程度に酒を飲み、気軽に異性と会話して、不埒な誘いは断る。大人として女性として、在りたい姿であること。その表現を許してくれるのが、この非合法な酒場であった。
「こんにちはレディ。一杯どうだい」
「ありがとうミスター。でも大丈夫よ、これで終わりなの」
「残念。でも一人かい、珍しいね。それに見ない顔だ」
「最近ここを見つけましたの。いい場所ね」
 誘われた酒を断って、気楽な世間話に移る。
 元は別の酒場に通っていた。そこには親友と言っていいほどの男性が二人いて、それこそ居心地の良いものであったが。ここに流れてきた理由を思い出して、落ち込む気持ちを酒で流す。
 カラリ、と蜂蜜色のビールを飲み干して一息ついた。
「さようならミスター。また会ったらご一緒しましょう」
 悲しい気持ちを酒で流して、フランは酒場を立ち去る。酒さえなければなにも思い出さなくていいかもしれない。しかし、フランが再び一人に慣れるためには何度思い出そうと酒が必要だった。

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