2018/12/20

2018.12.20

 至近距離で向き合うその目に、わたしが映っている。今この目には、この世界には、わたしたちだけが存在している。そんな事実が酷くわたしを酔わせた。
 空気を共有するように呼吸をして、他の誰も映さない目でお互いを見つめて、繋いだ手を融かして融和した。この一瞬、わたしたちは世界にたった二人の存在からひとつのものに昇華するのだ。人知れず、ひっそりと、誰もいない教室で。
 甘美な世界はわたしたちを大いに酔わせた。だからゆっくりと唇を寄せて、音もなく重ね合わせた。じんと熱く感じる体温が、唇から身体中を駆け巡って酔いを加速させる。それは幸福感にも似た、中毒症状と言ってよかった。離れた瞬間、わたしたちは形を成せなくなって、溶けてひとつに交わるのだ。
 それほど酔わせるキスだけれど、そこに愛や恋が在ったわけではない。ただ唇を重ねるだけの行為に永遠を感じるほど、強い独占欲があった。わたしたちはどちらも目を閉じずに、互いだけを映す瞳を見つめ続けた。そこに映る自分の顔は、みっともないほど欲にまみれていて興奮した。
「……………………」
「……………………」
 やがて唇を離した後も、わたしたちは形を保っている。あのまま溶けて混ざりあってしまっていたら、どうなっただろうか。
「あたしのが早かった?」
「うん」
「ならよかった」
 彼女は返事を聞くと、満足そうに笑う。その笑顔を見ていると、またわたしは酔いそうになる。きっとこのあとあるだろう、初彼とのキスだってここまで酔わせないに違いない。

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