2018/12/10

2018.12.10

「失礼します」
 大学に入って初めての授業。緊張しながらも退屈に開始を待っていると、隣に誰かが座ってくる。
 せっかくだし友達作るか、とそちらを見て絶句した。
 さら、と長い髪を揺らして座った彼女。その横顔は鼻筋が綺麗に通っていて、形のいい唇に見蕩れる。伏し目がちに教科書を用意している様はまるで絵画のようだった。化粧っ気はないけれど、綺麗な肌や涼しげな目元が彼女を美人であると語っている。背丈は高そうだが非常に華奢だ。欲を言えばもう少し肉付きが欲しかったが、ある種の未成熟な少女性を感じてどきりとする。
 これは、大学入ってそうそう彼女ができるチャンスでは。ごくりと唾を飲んで、どう声をかけようか考えた。
 その時。ぱっと彼女が顔を上げた。
「こんにちは! 今日はよろしく、名前なんて言うの?」
 溌剌と声をかけてくる、彼女。
 その声はまるで男のような落ち着きのあるテノール。いやまて、単に声が低めなだけかもしれない。
 そんな希望にすがって名前を告げる。その返事に、俺の願望は無惨にも打ち壊された。
「そっか。俺は橘透也、よろしく」
 男だ。間違いない。こんなに美人なのに、疑いようもないほど男だ!
 そんなことってあるのか!? そんな動揺を押し殺して、俺はなんとかよろしくという言葉を絞り出した。


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