2018/12/11

2018.12.11

「ふはははは! 俺が女って目バグってんじゃないの!?」
「鏡見ろよお前……」
 授業が終わったあと、二人とも空き時間だったために食堂でお茶をすることになった。
 目の前の美少女――もとい、美貌の男である橘透也は、女だと思ったと聞くやいなや豪快に笑いだす。彼を見れば見るほど男であると理解は進むのだが、その分見た目との解離も激しすぎて着いていけないのが本音だった。男勝りな女だと言われたら、今でも信じるだろう。だが彼の平たい胸板はどうみても骨っぽく、黙っていれば色気のある美貌は、残念ながら友人たちと同じようないたずらっ子の顔をしていた。
「髪が長いだけだろ」
「嘘つけ、くっそ女顔のくせに」
「そうかぁ? 短かった頃はそんなこと言われなかったけどなぁ」
 短かった頃、と言う口振りに昔から長かったわけではないのかと勝手に驚く。これだけの美人ならば髪が短くてもさぞかっこよかったんだろうなぁと思ってしまう。
 美人はどんな髪型でも綺麗なのか、神様は不公平なものだった。
「なんで伸ばしてんの? バンドとか?」
「いや。切るの面倒くさいなって思ってたら伸びてた」
「そんなになるまで放置するか普通?」
「いやさぁ、受験勉強めっちゃやってたんだよ俺。時間惜しみすぎてこうなってた」
 けらけらと笑う透也は、「これだけ長くなると逆に落ち着くんだ」と言う。中途半端に伸びるよりは伸びきった方が楽なのかもしれない。伸ばしたことがないから知らないが。
 くるくると綺麗な茶髪を弄んでいる彼を見て、ああピアスが空いてるなどと考えていると「まぁしばらくはこのままでいいかな」などと彼が呟いた。そして俺をまっすぐ見つめて、見せ付けるようにしゃらりと髪を広げる。
「お前が気に入ってるみたいだし?」
 に、と蠱惑的な笑顔に固まる。見蕩れたと言った方が正しいかもしれない。思わずどきりとしてしまったのを見透かしたような透也の笑顔に、彼の美貌から解放されるにはまだまだ時間がいると思い知らされた。


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