2019/01/11

2019.1.11

 大学に入ると時々こんなに色んな人間がいるのかと、驚くことがある。高校生までの校則で縛られている中ではまず見ない服装の数々。浮かれているだけの奴もいるんだろうが、今までそういう服装が出来なかったのを謳歌できるという意味では人生の夏休みと揶揄されるのも悪くないだろうと思う。
 そう、大学に入ると色んな人間を見る。それこそ髪の長い男が思いの外世の中には多いことに驚いたりもする。バンドをやり始めた友人であるとか、あるいは――女性と見紛うほどの美貌を持つ、隣の橘透也のように。
「お前ってさぁ、なんか髪の手入れとかしてんの?」
「ん? してないけど」
 食堂で昼飯を食べながら聞いてみる。今まで見た長髪の男たちはどれもこれもちりちりとしていて、透也のような艶のある綺麗な髪など見たことがなかった。何かしているのかと思えば、透也はけろりと答える。
 考えてみれば当然なのだ。勉強にかまけて美容院すら行かなかった人間が手入れなんてしているはずもない。
「なんで?」
「いや、だってすごい綺麗だからさぁ」
 する、と透也の長い髪を一束取ってみる。つやつやと手滑りのいい茶髪は溶かしたキャラメルのように甘そうだった。髪質と言ってしまえばそれまでだろうが――と手からこぼれ落ちていく髪が終わる前に、ガタリ大きな音を立てて透也が立ち上がる。
「うっせ、触んなばーか! 気色悪いぞ!」 動揺した様子で罵倒すると、忙しなく食器を片付けに行ってしまう。一人残された俺は、髪を触っていた手を空中で固めてしまう。
 ――しまった。
 照れたように焦った、透也の顔が浮かんだまま消えない。今までのからかってくるような少女性とはまったく違う、今の表情が。
 ――かわいかった…………!
 自分のしたことと、透也の焦った様子が合わさって、思わずそんなことを考えてしまい頭を抱える。
 橘透也が男であることにようやく慣れてきたと思ったのに、うっかりそう思ってしまってしばらく悶えていた。後でなんと弁明しようか考えられるようになるには時間がかかった。

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