2018/12/16

2018.12.16

 スケジュール帳は、鞄の中にある。万年筆も、鞄の中にある。
 けれど友達に見られてから今日一日、一度も出す機会がなかった。いや、出さなかった。恥ずかしかったのだ。
 放課後、友達には用事があると嘘をつき、わたしは一人万年筆と向かい合う。おじいちゃんが送ってくれた万年筆。それはわたしには持て余すものだったけど、けして嫌いなわけではなかった。だからちょっとずつ向き合っていきたいと思っていたのに――出来なかった。
 珍しいものを使うのには勇気がいる。それが持っていてもおかしくないものだったら自慢もするけど、万年筆はなんというか、もっとおじいちゃんとかが持っているイメージで、なんとなくわたしには相応しくなくて。だから、それを見られるのは恥ずかしかった。
 そんな自分を不甲斐なく思うけれど。
 ――ごめんなさい、おじいちゃん。
「やっぱりわたしには使えないのかな……」
 上品な深い青の万年筆。それを眺めながら、ため息をつく。好きになって、あげたいのに。
 そんな時、無人だった教室に侵入者がやってくる。無遠慮に開けられたドアに体を跳ねさせて、慌てて万年筆をポケットに隠した。
 ――ああ、また。
「あれ、遠坂。今の」
「な、なに?」
 入ってきたクラスメイトは、無表情にわたしを見た。ろくに話したこともない彼を、初めてしっかり見た。
「万年筆だよな? お前も持ってるんだ」
 そしてけして逃がしてはくれないような目で、隠した万年筆を暴いた。

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