図書室に行くと、いつも彼女はいる。大抵、本を借りるとすぐに去ってしまう。すれ違い様に微笑んでくれた気がする彼女を見送りながら、僕は本を手に取った。彼女が返したばかりの本だ。
彼女のことはなにも知らない。クラスも違うし、話したこともない。なんて話しかけていいのかもわからない。
そんな彼女に近づくヒントでも隠されていないかと、彼女が読んでいた本を開いてみる。
国語は苦手だ。だから、この曖昧に、詩的に描かれた文章がなにを表しているのか、僕には上手く理解ができない。だけど実験みたいに回数を増やしていけば、次に彼女が読む本くらいは予測できるかもしれない。そんな希望を持って本を開く。
もし彼女が次に読む本を予測できたら。限りなく0に近い確率で手が触れあうこともあるかもしれない。そんな仮定を置いて、思考実験を始めてみる。
思考実験にふけり、すっかり本の内容など忘れた頃、彼女の声で意識を浮上させる。
彼女は楽しそうに男と並び廊下を歩いていた。手を繋いで、指を絡めて、ぴったりと体を寄せていて。
――どたん!
椅子から落ちたことに気付くのは時間がかかった。
このモンダイを解くのに、僕はいささか時間をかけすぎていたらしい。
またひとつかしこくなれてよかったなあ。
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