2019/03/08

2019.3.8

 美幸が一年生の教室に行こうとするのを制したり、軽く道に迷ったりしながらもなんとか教室に辿り着く。
 自分の席に鞄を置くなり、あたしたちは彼女に声をかけた。一人で静かに本を読んでいる、一匹狼風の美人。
「朱音、おはよう!」
「朱音ちゃん、今年もよろしくね!」
「おはよう。ほんと仲いいわね、あんたら」
 辻浦朱音。無愛想に返事をする彼女は、声をかける少し前から本をしまっている。取っつきにくいところもあるが、なかなかにいいやつだ。
「嬉しいね、また四人とも同じクラスだなんて」
「そうね。そういや、綾は?」
「どうせ遅刻でしょ」
 時刻はもうすぐ二十分。予鈴は既に鳴ったあとで、生徒たちは教室に戻り始めている。
 ふむ、とメッセージを送ってみると、香川綾からは『今起きた』と返ってきた。
「今起きたって」
「ほんとどうしようもないやつね」
 友人の一人、綾の家はここから十分ほど。元から不真面目な性格に時間の余裕もあるせいか、綾は一年の頃から遅刻魔だった。
「佳奈子、あんたついでに綾も迎えに行ったらいいんじゃないの」
「えーっ、駄目だよ!」
 朱音の言葉に、あたしより先に美幸が声をあげる。ぐいと腕を組んできて、美幸は叫ぶ。
「佳奈子はわたしのだもん!」
「きゃー、やだー」
「朝からうるさい」
 呆れた表情の朱音に睨まれながら、クスクスと笑う。美幸を迎えに行くのは、少しでも一緒にいたいから。そんな二人の時間は、友達にも介入は出来ないのだった。

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