レジカウンターに立つ佐藤くんの後ろで、わたしは手持ちぶさたに眺めていた。
左手で持っていたインク瓶を置くと、再び左手で財布を取り出す佐藤くん。それから動きを止めて、少しもたつきながら右手でファスナーを開ける。そんなぎこちない動きを見て、思い出す。
――利き腕の握力全然ないんだ。
両手を使うしかない、こんな時。多分、右手では財布を持つのも、小銭を取り出すのも大変なのだろう。
助けた方がいいのかな、助けなくていいのかな。助けたりしたら傷付けることになったりしないだろうか。なんて少しハラハラしているうちに、佐藤くんは慣れた様子で会計を済ませていた。
「よ、お待たせ。……なに?」
「あ、う、ううん」
わたしが不安がるのを気付く様子もなく、左手でインク瓶を下げて振り返る。
考えなくてもわかることだ。怪我をした中学時代から少なくとも二年が経っているんだから、わたしが助けなくても彼は自分の生活ペースができているのだ。
ちょっと知り合いになったくらいで、なにしようとしてるんだろ、恥ずかしい。男の子と関わるのって難しいな。
「じゃ、出るか」
「う、うん。……あの、ありがとう。連れてきてくれて」
「ああ……こっちこそ。いきなり誘ったのに、ありがとな。腹減ったし、なんか食べようぜ」
「うん…………え?」
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2019/03/12
2019.3.12
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