「それで、今日は何を買うの?」
「ああ、インクだよ。いつも同じやつだから、悩むこともないんだけど」
店のさらに奥、窓際に並べられているのがインク瓶だった。数百種類が並べられている中で、佐藤くんは迷わず大きな黒の瓶を手に取る。日常的に使うせいで、黒は切れるのが早いらしい。それでも多分、シャー芯よりは長持ちするという。
「カラーインクはどれ使ってるの?」
「気分によるかな。でも小さい瓶選んでるよ、これとか」
そう言って佐藤くんが指差した先には、かわいい名前のついたインクの数々。三本好きに選んでまとめ買いする商品らしい。
紫陽花、夕焼、群青……その名称に惹かれて思わず買いたくなる。今持ってるインクさえまともに使ってないのに、そんなことは出来ないけど。
「いいな、色んな色使えたら楽しそう」
「二本目買えば?」
「……今のやつを使いこなせたら」
もっと気楽に使えたらいいんだろうけど、今ある万年筆もまともに使えないのに、かわいいだけでは買えない。安い買い物ではないのだ。
そう難しい顔をするわたしを笑って、佐藤くんは無情にも会計に行った。
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2019/03/11
2019.3.11
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