2019/03/14

2019.3.13

 文具屋を後にして、わたしは流されるままにパスタのお店に連れてこられていた。もそもそと食事をしている間、佐藤くんが話を振ってくれるから沈黙はしないものの……彼は、異性と二人で緊張したりしないのだろうか。
 初めての経験に、わたしは胃がおかしな挙動を始めているのに、佐藤くんはまったく羨ましいものだった。
「そういえば、遠坂のおじいちゃんってどんな人なの?」
「え……どんな人?」
「万年筆くれるってのも、珍しいなと思って」
 問われて、口ごもる。おじいちゃんのことはよく知らない。実家は遠いし、ほとんど里帰りもしないから、どんな人かなんてわからない。
 万年筆が趣味なのかどうかも、知らない。お礼のハガキは送ったけれど、それに返事はなかったのだ。
「わからない……実家、遠いから」
「そっか。万年筆の話なら、俺よりそっちに聞いた方が詳しそうだと思ったんだけどな」
「そう……なのかなぁ」
 話しにくさはどっちも変わらないけど、歳が近い分まだ佐藤くんの方が話しやすいけど。なんて言葉は飲み込んだ。
「同い年の子が使ってるの知れた方が、落ち着いたから……」
「まぁ、それもそうだな。俺も他に知らないし」
 食後のお茶を飲みながら、佐藤くんはなんてことないように言う。
「まぁ万年筆仲間ってことで、また付き合ってよ」
 友達を気軽に誘うような感覚で、彼は言う。思わず目眩がした。佐藤くんにとってわたしってどういう立ち位置なんだろう?
 彼の気持ちを図りかねながら、苦しみつつも「……う、うん」となんとか返事をした。

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