2019/02/27

2019.2.27 アタボイ

「…………」
 十文字アタリは何度も振り返る。そしてその度に、視界には真っ白な体の機械少女がそこにいた。
 機械少女Voidollは、大抵の場合、#コンパスの管理人として働いている。だから多くの場合、アタリから話しかけなければ彼女は捕まえることができない。
 そんな彼女が、ここ最近ずっとアタリについて回っていた。アリーナに行くときも同じチームに来るし、どこへ行くにも着いてくる。今までにないことに、アタリは嬉しさを感じつつも疑問を抱かずにいられないでいた。
「……あの、Voidoll?」
「ナンデショウ」
「俺にさ、なんか用あんの?」
 ついに黙っていられないで聞いてしまう。彼女はモニターを瞬きさせるようにパチパチとさせて、こてりと首を傾げた。
 それから何かを考える素振りをしたかと思うと、ピーと機械音を鳴らす。解析が終わりましたと、彼女は言う。
「最近、正体不明ノ バグヲ 感知シマシテ。ソレガ アタリト イルトキニ 発生スルノデ 調ベテ イマシタ」
「なるほど?」
 曰く。原因不明の共鳴が起きたり、思考が乱れることがあったり、あるいはアタリと一緒にアリーナに行くと普段より能力の上昇が見られたらしい。マルコスやソーンのアビリティと似たものかと解析するも、どうも違うと言う。アビリティならば普段の生活で影響があるのはおかしい。
 そこでさらに調べると、原因がアタリにあるらしいことがわかり、調べるためについて回っていたと言う。
「で、結局なんだったんだ?」
「ワカリマセン」
「はぁ?」
「正確ニイウト、バグ トモ違ウ ヨウデス。人間ノ 言葉ヲ 借リルナラ、"コイ"ガ近イデショウ」
「!?」
 ほとんど告白でありながら、Voidollは冷静に自分の状態について語る。
「現状デハ 有用ナコトモ アリマスシ、モウスコシ 様子ヲ 見ヨウト 思イマス。アタリ、付キ合ッテ クレマスネ?」
 その不具合をコイであるとしながら、自身の恋に無自覚な彼女は、なんてことないように告げる。しかしそれは多感な年頃のアタリにはあまりに刺激が強かった。
「……しょうがないな」
 舞い上がらないように、だがにやけるのは止められず、アタリはへらりと笑う。
 ずっと抱いていた好意が恋であったことに、気付くには十分すぎる言葉だった。

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