今日この日のために、十分な準備をしてきた。
何日も通いつめて、周辺の雰囲気や通りがかる人の様子、店舗内の雰囲気を入念に確認して決めたレストラン。
一週間前に行きつけよりずっといい美容院で切った髪。
慣れない高い店で店員さんに聞きまくってなんとか買った服。
寝ている彼女の隙を見てサイズを測って買った指輪。
やり残したことはない、と思う。正直不安しかないが、今日が来てしまった以上、もうやるしかないのだ。後に引くことはできない。そわそわと約束までの一時間を待っていることしかできない。
彼女とは、もうそこそこ長い付き合いになる。喧嘩ばかり――というより、僕の不甲斐なさのせいで彼女を怒らせてばかりだ。それでも、根気強く付き合ってくれる彼女をなんとかして喜ばせたくて頑張ってきた。きちんと喜んでもらえているのかは、あまり自信がない。
だからこれは、最後の大博打だ。受け入れてもらえなかったら、僕は彼女を幸せにできる器ではなかったのだと自覚して身を引く。ずっと考えていたことだった。彼女が僕といて楽しんでくれているのか、不安だったから。
きっとこんな理由でプロポーズすることを、彼女が知ったら怒るだろう。それでも彼女にジャッジを下されたかった。
「お待たせ、早くない!?」
「あ、……そう、かな? でもそっちも早くない?」
「……だって、楽しみだったし」
待ち合わせ30分前。現れた彼女は恥ずかしそうにはにかんでみせる。
今日の大勝負には、珍しく勝てる気がした。
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2019/01/09
2019.1.8
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