2019/01/07

2019.1.7

 陽に当たることの少ない、生白い細腕からつうっと赤い線が伸びている。ぬらぬらと光るそれは、生気のない腕が生きていることを証明すると共に、今にも命を絶とうと流れ出していた。
 一本の細い切り傷から流れ出る血を見つめた後、僕はのっそりと救急箱を持ってきて、生きる気のない細腕を掴む。
「……離してよ」
「君は、死にたいの?」
「……死にたくない」
 止血をするのを振り払うことなく、彼女はぼそぼそと抗議する。僕はそんなものは無視をして、手当てを終わらせる。終わったとたんに振り払われた手を膝に乗せて、彼女を見つめた。
「消えたいの」
 彼女はよく、そういう。消えたくなってはこうやって自傷している。自傷行為が求めるものからは程遠いものであることをわかっているのに、彼女はこれをやめられないのだ。
「僕は消えてほしくないよ」
「私が消えてほしいの」
 曲がりなりにも好きな人なので彼女がこうして自分を嫌うのは悲しいのだが、僕の言葉は届かない。いや、きっと信じようともされてないんだろう。
 どんなに言葉を尽くしても、実行に移しても、彼女はきっと信じない。彼女が自分を嫌いだから。
「僕は君の生きる理由になれない?」
「その趣味の悪い冗談、いい加減やめてくれない」
 ようやく顔を上げた彼女の目に、僕は映らない。世界の闇にだけ向けられた彼女の目は、僕などは映さない。
 彼女の意識は今日も死に近い。僕程度では彼女を世界に繋ぎ止めてはおけないらしい。きっと彼女は今に、真っ赤で美しい血の中に救いを求めて羽ばたいてしまうんだろう。

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