2018/12/16

2018.12.15

 小さな荷物だけを持って、彼女は大型バスに乗る。チケットを見せて指定の席に向かうと、隣には見知らぬ女性が既に座っていた。軽い挨拶をしながら椅子に座る。
 今日は観光バスで日帰りツアーに向かう日。高校を卒業してからはすっかり縁のないものとなった観光バスに乗るのは、少し遠足気分で浮かれる。長い年月を共に過ごしていた同級生たちもいない、同行してくれた友人もいないバスの中は見知らぬ人々ばかりだったが、それでも遠足のように楽しみにしていた。
 バスに乗り込む人々を見ていると、その層は様々だ。男性、女性、友達同士で、カップルで、夫婦で――ただ、彼女のように一人で来ている様子の人は、かなり少数派のようだった。
 今日向かうのは果物がたくさん食べられるツアー。果物は特別好きなわけではなかったが、彼女は遠出をするのが好きだった。いつもは一人でふらふらと高速バスで観光に行ってしまうが、たまにはこんなのも悪くないかもしれないと考える。
「こんにちは。あなたもお一人で?」
「っえ」
 観光バスの雰囲気を楽しんだところで隣の女性に声をかけると、飛び上がるほど驚かれてしまう。知らない人と話すのは苦手なタイプだったかと、少し反省した。
 彼女は旅先で名前も知らない相手と話すのが好きだった。
 女性は不信感を隠さずに簡単に返事をする。申し訳ないと思いつつ、さらに追求をしていった。
「やー、ツアーがこんなに一人身いないなんて思わなくてびっくりしました。こういうのよく来るんですか?」
「い、いえ……」
 おどおどと返す女性となかなか目が合わない。これは悲しい、せっかく隣に座ったのに。
「まぁせっかくお隣になったので、今日はよろしくお願いします!」
 今日の目標は女性に目を会わせてもらうことだな、と彼女は図々しく掲げた。嫌がられるだろうと思ったが、どうせ今日限りなのであればたくさん話がしたかった。

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