門真徳文には二人の兄がいる。
若いながら既に系列のうちの一病院の経営を任されている長男、徳之。学問に富み将来は医療器具の開発を志す次男、徳明。どちらも優秀な兄だ。
しかし徳之は歳が十も離れているのに加え、徳文が物心付く頃には寮制の学校に進学していたためよく知らない。徳明よりも頭がよくて、今に父を越えるだろうと噂されている。それくらいしか。
そんな徳文にとっては別次元に存在する兄、徳之が帰ってきた。
それも、家族の誰もいない中で。
「ただいま、フミ」
「お、おかえり、にいちゃん……」
両親は出張、徳明は勉強合宿、家政婦は既に帰った後。必然的に徳文が出迎えることになる。どう接していいのかわからないまま棒立ちになっていると、自分よりいくらか背の高い徳之に頭を撫でられる。意図がわからないまま撫でられつつ、徳文は震えた声で問う。
「ど、どうしたの。今日、父さんもアキ兄ちゃんも、いないけど……」
「ああ。だから家に居てほしいって頼まれたんだ。聞いてなかったか?」
「ええ……俺、留守番くらいできるよ……」
頭も悪く、何をするにも要領の悪い徳文だが、さすがに留守番くらいはできる。そこまで自分を信用されていないことに傷付いた。高校生にもなって。忙しい長兄まで呼び出すだなんて。一体誰だろう、そんなことをしたのは。
ショックで呆然としている徳文を気にもせず、徳之は大きくなったなと撫で回す。
「ほら、ご飯を食べに行こう。なんでも食べさせてあげるぞ」
徳之の態度は、まるで小さな子供にでも接するかのよう。そんな子供扱いに、もう少ししっかりしようと、傷付いた心で徳文は決心した。
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