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2019/03/20

2019.3.20

「そういえばお前聞いた?」
「何が?」
「ゴールデンウィークの話」
 大学に入ってから、橘透也と知り合ってから、早一ヶ月が経とうとしている。あっという間にやってきたゴールデンウィークについて、目の前の女と見紛う美貌の男は気軽に言う。
「みんなで旅行行こうぜって」
「いや駄目だろ!! そんなの絶対だめ!!」
「は、なんで?」
「少なくともお前が一緒に旅行行くのは駄目だろ!!」
 橘透也という男は非常に美人だ。ぱっと見ただけでは男だと気付きにくい女顔な上に、さらさらとした茶髪は肩まで伸びていて女性性を濃くさせている。加えて、背こそ男としては並みだが華奢で未成熟な少女を思わせる体つきをしている。
 そんな男が他の男と旅行なんかしてみたらなにが起こるかわからない。だからやめておけと、俺は必死に止めた。
 しかし透也は反省するどころか爆笑し、ゲラゲラ笑ってからこう宣告した。
「ふ、はは……ひぃ~」
「なんだよ!」
「あのなぁ、俺をそんな女扱いするのお前だけだぞ?」
 誰も、透也のことを女と見間違えたことはないし、透也を女性のように扱うそぶりすら見せない。そんなことをするのは俺だけだから、大丈夫。そう透也は笑う。
 嘘だろ、こんなにかわいいのに?
「それとも何、俺お前に気を付けた方がいい?」
 橘透也は蠱惑的に笑う。その笑顔はいつだって俺の目を奪ってきて。周囲との齟齬を突きつけられても納得ができないまま、絞り出すように「行くよ……」と了承した。

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