メニュー

2018/12/07

2018.12.6

 水橋清人は、今日も虚空を見る。
 姉を殺した罪を罰せられるわけでもなく、狂人扱いされて精神病院に閉じ込められる日々。清人は狂ってなどいないのに。しかし、彼が罪を犯した経緯を人々に信じてもらえるわけはなく、清人はこうして虚空を見つめることしかできなかった。
 清人は姉と仲がよかった方だろう。考古学者の父の影響で、二人揃ってそちらの道へと進んでいた。趣味が合うから、話すことは多かった。
 あの日もいつも通りに過ごしていたはずだった。しかし急に眠くなったと思えば、二人は大量の武器が立て掛けられた、板張りの揺れる部屋にいたのだ。二人は数少ない手がかりを元に脱出を図った。
 ――あなたが救えるのはただ一人――。
 そのメモを見た清人は姉をここから出そうとした。もう一つの手がかりと組み合わせて、゛ミセリコルベで刺された方だけが脱出する゛のだと考えたのだ。
 その結果は。
 起きたとき、姉は隣で息絶えていた。清人の刺したミセリコルベの傷痕を残して。清人は失敗したのだ。彼の考えはあまりにも浅はかだった。自分が死んでおけばよかったのに。そうすれば姉は生きてくれていたのに。
 そんな経緯を、誰も信じてはくれなかった。清人は嘘は言っていない。だが仕方のないことだった。
 狂人とされた清人は今日も、虚空を見つめながら姉を想う。追憶し、懺悔し、悔恨する。
 慚愧の念に苦しむことでしか、今や姉に対する贖罪の術を持たなかった。

0 件のコメント:

コメントを投稿