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2018/12/05

2018.12.5

 ざぁぁぁ、と音がする。黒猫は眠りから覚めると、くいとそちらへ顔を向けた。雨が降っている。けれど、何故か黒猫は濡れない。
 この現象は雨の度にあった。黒猫はいつも不思議に思って雨の方へと向かうが、見えないなにかに阻まれて出ることができない。かしかしと手が当たるばかりのそれには、見知らぬ猫の姿が映っている。これが自分の姿であることを、黒猫は最近理解した。
 黒猫は生まれてこの方、雨というものを見たことはあるが、触れたことがなかった。触れてみたいからこの見えないなにかを退けろと同居人に要求したことは幾度とあるが、いつもおやつだと思われて菓子が出てくる。今日も出てきた。菓子は好きなので別に構わないが、それでも不満はあった。
「あんた雨の日はおやつの要求多いわね」
 同居人が呆れるように言う。別におやつなど要求していない、勘違いしているのは同居人の方だ。しかし抗議をしても同居人には通じないようだった。
 雨の日、黒猫はなんとなく落ち着かない気分になる。音が絶え間なく降ってくる。それによって他の色んな音が消されていく。いつも外から聞こえる音がなくなるから、調子が狂う。
 よくやってくる小鳥はこの雨というものの正体を知っているだろうか。知っていたとしても、小鳥と会話できない黒猫は問いただす手段を持っていなかった。
 そんな時、雨以外の音を耳にした。パチパチと弾ける音だ。振り返れば、同居人がなにやら緑色のなにかを持っている。水にしては見たことがない色をしていて、近寄ってみると同居人は困ったように叱ってきた。
「なぁに? もうおやつはなしよ。クリームソーダはあげらんないからね!」
 別にくれなど言ってない。
 あの緑色のなにかはクリームソーダと言うらしい。小気味良いパチパチ弾ける音が雨よりも近くで聞こえてくる。机に飛び乗って聞いてみることにした。今度は叱られなかったから、黒猫は今日はこの音を聞いていることにした。

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