「今日はどうしますか?」
「ばっさり、いってください!」
美容院で意気込んで、そうリクエストをする。腰まで伸びた長い長い髪を切ってしまうのは少し寂しかったが、ここまで来て怖じ気付くわけにはいかない。
もうすぐ、大学の入学式がある。それに向けて、わたしは髪を切ろうと前から決めていたのだ。伸ばしに伸ばした髪からは卒業して、もう少しさっぱりとした髪型になりたいと。髪も染めたいし、それだったらばっさり切って美容師さんも楽にさせたいと。
そんな一心で意気込むわたしに、美容師さんは驚きながらわかりましたと答えてくれる。
「ずいぶん思いきられるんですねえ」
「大学入学を期に、ちょっと」
「大学デビューですか?」
「まあ、そんな感じで」
髪を伸ばしてたのに理由はあまりない。長い髪をすごいね、と言ってもらえるのがなんだか嬉しくて、そのうちに切るタイミングを逃していた。それだけ。
はさみがざくざくと髪を切っていくのを聞きながら、軽くなっていく頭を実感する。一体どのくらいの重さがあったのだろう、ヘルメットでも下ろしたような解放感がわたしを包む。気付けばすっかりショートヘアが出来上がっていた。
長く黒々とした髪は自分で言うのもなんだけど、それはそれは綺麗なものだったけれど。
――あー、こっちの方が明るく見える。
髪の重さに引っ張られて暗くなっていた顔の雰囲気が、驚くほど軽くなった気がする。
――やっぱり切って正解だった。
不安が解消されて満足する。髪を切った新しいわたしの大学生活、一体どうなるだろうか。今から楽しみになった。
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2019/04/06
2019.4.5
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