2019/04/03

2019.4.2

 洗って、インクを満タンにして、ペン先を上に向けてビニールもかけた万年筆は、肩掛け鞄の中。無事に飛行機を突破できるだろうかとドキドキしながら、ついに旅行に出かける。
 おじいちゃんの家は、飛行機に乗ったあと、さらに一時間ほど車を走らせた場所。窓際の席で雲を眺めていればわりとあっさり着いてしまうので、飛行機をもう少し堪能したいといつも思う。そして空港からまただらだらと田園風景の中を走って、車に飽きた頃にはおじいちゃんの家に到着するのだ。
 家も少ない中でぽつんと建った一軒家。ぼろくはなく、むしろ年季の入った立派な様相をしている。マンション住まいのわたしからすると驚くような広さだ。
 そんな家の玄関は大抵鍵もかかってないから、この家の子である父はいつも無遠慮に扉を開く。
「ただいまー」
「はぁいー。……あ! おかえりなさい、よく来たねぇ」
 パタパタと走って迎えてくれたおばあちゃんに、お邪魔しますと応える。両親に続いて家に入り、荷物を置いてから居間に向かえば――おじいちゃんはいた。
「こ、こんにちは」
「はい、こんにちは」
 愛想なく返事をしてくれるその人は、難しそうな顔をして、じっと新聞を読んでいる。わたしが来たこともお構いなしに。
 ――わたし、おじいちゃんと話せる自信ないなぁ……。
 元々なかった自信が、さらに萎れていく。おじいちゃんはいつ来てもこんな感じで、まともに話したことがない。どう話しかければいいのだろうと、居間に立ち尽くして途方に暮れた。

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