平成三十一年四月一日。それまでエイプリルフールに浮かれていた世間は、その時を境にじっと画面を見つめていた。テレビを見る者、スマートフォンを見る者、パソコンを見る者。様々な媒体を持っていたが、その注目は一様にして同じであった。
そしてそれは、少女も同じ。
春休み、一人でじっとテレビにかじりついていた。起きたまま櫛も通していない頭で、背筋を伸ばして、じっと。
少女が生まれてからずっと続いていた平成が、ついに終わる。それは少女にとって世界が終わるのと同じような衝撃を持って眼前に現れた事象だった。
漠然ともっと続くと思っていた平成を終わらせる、一ヶ月前の今日。ついに新たな元号が発表される。そんな初めての経験に少女も浮き足立っていた。これは、時代が大きく移り変わる一瞬なのだ。少女は今日、時代の証人となるのだ。
映し出される記者会見会場。時刻は十一時半を示した。ついに、と固唾を飲む。予定より少しだけ遅れてやってきた官房長官が、口を開いた。
「――――!!!」
その言葉を、少女は確かに聞いた。
淡々とした一語。しかし、透き通ったその文字は少女の胸に刻まれる。
令和。万葉集から取られた、美しい詩の言葉。次の時代を彩るにふさわしい、その言の葉を、少女はぎゅっと抱き締める。
時代が変わるまで、あと一ヶ月。
少女はその日、時代の証人となる。
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