『悪い、ちょっと遅れる』
橘透也からそうメッセージが来たのは、今から十分ほど前のこと。どのくらい待つのかわからないから、喫茶店に行くことはできない。どう暇を潰そうかと考えていたところで、駅前の本屋が目に入った。初めて入った本屋を軽く見回して、雑誌コーナーを見つけるとさっさとそちらに歩いていく。
コンビニと違って、本屋となると種類も豊富だ。大量のファッション誌、目が惹かれるバイクや車、果ては誰が読むのかわからないニッチすぎるテーマまで様々。
その中から適当に気に入った表紙のグラビア雑誌を手に取った。谷間を見せつけるように前屈みになったかわいいグラドルは、どんなにあざとくても好きだと思ってしまうんだから単純だ。パラパラと適当に眺めていると、やがて一人のグラドルに目が止まる。
柔らかな色の長髪は日差しでオレンジ色に輝き、涼しげな猫目はどこかいたずらっ子の様子で細められている。形のいい唇は弧を描き、挑発するようなポーズに簡単に魅了された。
――これは、まるで。
「おい!」
「うわっ!」
「携帯ちゃんと見ろよな、探したぞ!」
ばん、と慌てて雑誌を閉じて声の主を見ると、涼しげな猫目の美人――橘透也がそこにいた。
遅れてきたというのにふてぶてしく文句を言ってくるその男に、鼓動が鳴り止まない。
――この顔に弱いのかなあ。
よく似た雰囲気のグラドルと透也。それでもより掴まれてしまうのは、透也なことに危機感はあった。
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