駅前から徒歩十分程度歩いたところで旅館に辿り着く。旅館というには綺麗なコンクリートの建物の自動ドアを潜ると、外観とは変わって和風な作りの内装が俺たちを出迎えた。
「おお、雰囲気あるな」
「いいね、部屋も綺麗そう」
口々に感想を言いながら部屋を言い渡されて向かう。三階にある四人部屋。依然先頭を歩く溝口泰斗が部屋の鍵を開ければ、すぐに畳張りの広い一室が目に入る。
思わず感嘆の声を上げた先は更に奥。大きな窓の向こうに広がる、雄大な海に対してだった。太陽にキラキラと輝く海はまるで宝石のようで、さらに人気がないのが余計に絵画のような印象を受けさせた。
「うわー、いいなぁ、海!」
「本当だ。もう少し後だったら泳げたかもな」
「やっぱりまだ寒いもんなぁ」
5月ともなれば十分に暑いが、水温はまだ入るには低い。我慢すれば入れるだろうが、そこまでもう元気ではなかった。
各々荷物を置いてから、また名残惜しいと窓を見る。そうすると、隣にいた橘透也が必然的に目に入って。
――海と透也。改めて絵画みたいな構図だなぁ。
なんて、彼の茶髪が太陽に透けるのにみとれて――ぶんぶんと首を振った。いい加減、透也をはっきりと男だと理解する必要がありそうだった。
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2019/03/26
2019.3.25
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