ベッドだけで部屋が埋まるような、狭いワンルーム。照明は温かな暖色だが薄暗く、綺麗に整えられている固めのベッドに腰かけるだけで少しうとうとする。
初めての一人旅。右も左もわからないまま取ったホテルにようやくたどり着いた頃には、わたしはくたくただった。見知らぬ土地で一人きり。それは想像以上に心細くて、どんなに文明の利器によって道に迷わずに済んでも恐ろしいものだった。
旅行というより、ただのライブ遠征。だからホテルを楽しむ余裕は、あまりない。
だけど、一人きりでホテルに泊まるという行為は家族旅行でも修学旅行でも味わえない、不思議なときめきがあった。心細いのは本当だが、ようやく、そうようやく大人として独立したような実感が湧いてくるのだ。
まだ親の管理下にいる大学生だったが、それでも一人でこんなに遠くまで来れるようになったのだ。少し前まで一人で電車に乗るのも不安がっていた小学生だったはずなのに、わたしはいつの間にか一人で飛行機にさえ乗ることができるようになっていた。そんな成長を、くたくたの頭で実感する。
今のわたしは、誰にも干渉されない独立した一個人なのだ!
「うー……動きたくない……お風呂入らなきゃなぁ……。はーぁ」
独立した一個人であるということは、自分の行動は自分で管理しなければならない。動けと言ってくれたり、朝起こしてくれたりする母はここにはいないのだ。
もういい加減大人なんだから、しっかり動いてみましょうとわたしはベッドから立ち上がる。大丈夫、ここまで一人で来れたわたしならできるはずなのだ。
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