レモンティーがあまり好きではない。すっぱくて、砂糖と味が混ざりきらなくて、そして少し苦い味が。
なんだかちょっとだけ嫌な思い出が浮かんでくるから。
例えば、親友の好きな人が自分の好きな人だったこと。
例えば、知り合いが自分のことを影でどう思っているのかを知ってしまったこと。
例えば、楽しみにしていた商品が目の前で売り切れてしまったこと。
例えば、いつの間にか刺さっていたトゲが、いつまでたっても抜けないこと。
レモンティーの味は、そんなちょっとだけ嫌な思い出に似ている。混ざらない酸味と甘味がまるで強がろうとしている時のよう。それなのに苦味がわたしに追い討ちをかけるのだ。それだけわかっているのに、何故かレモンティーを飲んでしまう。
わかってる。嫌な思い出だけれど、忘れたらいけない思い出の味だからだ。わたしを作ってきた思い出たちは、レモンティーの味がするのだ。
だけど。
「……やっぱりクリームソーダにすればよかった。あんた、レモンティー飲む? ……飲めないわよねぇ」
感傷に浸るわたしを、無感情に飼ってる黒猫が見つめる。視線はわたしというよりレモンティーに向いていて、ひっくり返されたらたまらないとテーブルから持ち上げた。
一口飲んで、その酸っぱさと甘さと苦味にまた顔をしかめる。レモンティーはあまり好きではない。それでもわたしは忘れないために飲まないといけなかった。
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