バレンタインが終わって一週間。旬が過ぎて安売りされていた業務用チョコレートをホットミルクに溶かせば、甘くて美味しいココアが出来上がる。それを机に置いてから、わたしは届いていた箱を開ける。中に入っているのは、過剰に守られた小箱。
通販でたまたま見つけた、猫用のお菓子。可愛らしく包装された箱を開けると、トリュフが出てくる。馬肉で作られたトリュフ風のお菓子だった。
お菓子を片手に姿の見えない飼い猫の名前を呼ぶも出てこない。いつもあげているご飯の袋をがさがさと鳴らせばあっさり出てくるのだから、全く現金な飼い猫である。
いつから居たのだか、押し入れの暗闇から飛び出してきた黒猫は媚びるようににゃんと鳴く。袋を置くとなんだ違うのかと帰ろうとするのを捕まえて、目の前に馬肉トリュフを差し出した。
こういうものをあげるのは初めてだ。食べるかな。不安に思っていると、匂いを確認した黒猫は恐る恐る口に含む。
「よかった、おいしそうね」
おかわりを要求するのに安心して、残る二個を皿に並べる。全部食べ終わるとさらに要求するが、残念ながら今日はこれでおしまいだ。
「今日は猫の日なんですって。少し遅くなったけど、ハッピーバレンタイン」
独身女と黒猫の生活の中で、バレンタインに湧くようなことは残念ながらない。しかし時流に乗らないのは寂しいものだ。いい具合にぬるくなったココアを口に含んで満足する。
これでバレンタインのノルマはクリアしたでしょ。なんて、足りないと文句を言う本命相手を無視してココアを楽しんだ。
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