「ありがとうフラン! ねえねえ似合ってる?」
「ええ、とてもお似合いですよ」
新しい服を着てご機嫌に回るディアンを見て、フラン・M・エヴァンズは微笑む。
マグリール家嫡男ディアン・マグリールの仕立て人として起用されてどのくらいが経っただろうか。幼少より見てきたディアンは、家から出られないほど体が弱かった。そんなディアンが、ついにミスカトニック大学に進むべく仕立てられた礼服を着ているのを見ると、フランの感動もひとしおだった。
――昔はあんなに小さかったのに、立派になられて。
体が弱く、いつもベッドに寝ているところばかり見ていたディアンがこんなに元気に笑っている。学校に通えるだけの体力もついて、きっと彼の人生はこれから始まっていくのだろうと感じさせた。
「ディアン様はどちらの学部に通われるのですか?」
「えっと……どこだっけな? 忘れちゃった!」
「あら。これから通われるのに」
「へへ、でもどんな勉強でも楽しみだよ。勉強ができるんだから!」
学校に通えることで頭がいっぱいらしいディアンは可愛らしく笑って誤魔化す。その忘れっぽさはやや心配だったが、意欲があるならばきっと有意義に過ごせるに違いない。フランは大学に通ったことがないがそう思った。
「そうですね。では私からひとつおまじないとしましょう」
「なあに? …………!」
「貴方が、大学で素敵な紳士となりますように」
おまじないと称して額にキスを落とす。甥っ子のように見てきたディアンの門出をフランは心から祈っていた。
次に会うのはきっと春。どんなに素敵に成長するのか今から楽しみでしかたがなかった。
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