2018/12/26

2018.12.26

「……よし」
 期末試験の近い冬の日。暖房で暖まった部屋でもこもこのパーカーと靴下を身につけて、机に向き合う。数学の問題集とノートを広げ、隣には万年筆を転がした。
 先日クラスメイトが言っていた、万年筆の使用法。人に見られるのはまだ恥ずかしいけれど、万年筆を好きになりたいわたしにはちょうどよかった。普段は勉強なんてしないけど、ありがたいことに期末試験も近い。いい機会だからと珍しくわたしは机に向かう。
 万年筆を片手に、問題集を解こうとする。するりと滑るようにペン先を動かすと、水っぽいインクがぷっくりと紙の上に浮く。そしてすぐに吸われていって、鮮やかな藍色が少し滲む。空気に晒されるほどに段々色が暗くなっていくけれど、柔らかな淡さはなくさない。
 そのインクの移り変わりがあまりにも美しくて、わたしは文字を書いてはそれらを楽しんだ。おじいちゃんに手紙を書いたときには、こんなに綺麗だなんて思わなかった。万年筆を好きになろうと思っただけで、こんなにたくさんの色を見せてくれるだなんて。
「……ちょっと、楽しいかも」
 文字を書くのが楽しくなって、すいすいと問題が解けていく。万年筆にするだけで勉強が楽しいだなんて、思ってもない発見だった。

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