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2018/12/21

2018.12.21 華房心+麗朔空

 今度の新曲の歌詞を見る。甘い夢に招く水先案内人の歌。衣装もそれに合わせて、とびきり甘く、かわいく、そしてグロテスクなメルヘン調だ。華房心はそれらを気に入ってはいたが――ちら、と向かいに座る男を見る。
 心より十は上の大人。色香を漂わせながら、どこか無邪気すぎる幼さを窺わせるような甘いマスク。その美貌はにこやかに心を見つめていた。
「……嬉しそうね」
「そりゃあもう! だって華房さんと歌えるんだよ? 嬉しいに決まってるじゃん」
 初めて会った時から、ファンであると言い続けていた麗朔空は話が来てからこの調子である。好かれていることはいいのだが、彼の好意は素直に喜べないとこが多くあり、調子を大いに狂わせた。
「まさかあなたと歌う日が来るなんて思わなかったわ。歌詞もあなたにぴったり」
 麗のプロデューサーへ向ける執着心と歌詞を重ね合わせる。大好きなものを、素敵なものばかりの世界に閉じ込めて、満たされたその心を喰らおうとする。
 そんな評価を聞いた彼は嬉しそうに笑うと、だよねーと気軽に同意して、こんなことを言ってきた。
「でもこの歌は華房さんがいないと成り立たないよ。僕はこんな甘ったるい毒は持ってない。僕が主人公を出迎える案内人なら、華房さんは主人公を閉じ込めるための毒なんだ」
 この歌は、麗と心のために書き下ろされた曲。麗の狂気的な愛を、心の愛らしさで包んで悪化させた、理想郷の歌。それに心は異論なかった。二人でなければ歌えなかった歌だ。これを心は気に入っていた。
 だからこそ、心は釘を刺す。
「それは違うわ、だって心は毒なんて持ってないもの。心に毒なんてものはいらないの。心のかわいさで惹き付けるのに、毒なんて必要ない。この歌のかわいさが毒だと言うなら、それはあなたのせいよ」
 華房心に毒はいらない。純度の高い゛かわいい゛を突き詰めた存在こそが心だ。毒などなくても、心は人を惹き付けることができる。この魅力を、毒と形容されるのは納得いかなかった。
 しかし。
「でも、この歌に甘ったるい、蕩けるようなかわいさの毒が必要だと言うなら。私は酔わせる存在になってあげるわ」
 一時期でも校長にアイドルと認めさせた実力と、人気投票で心を二度抜いてみせた存在感。心は麗のそんなところは認めている。
 彼がそういう世界観を心に求めているのなら、この曲の間だけは魅せ方を変えることはやぶさかではなかった。
 心の言葉を聞いた麗朔空は、頬を上気させ酔ったように答えた。
「ああ……いい! やっぱり華房心は最高だよ……!」
「当然よ、だって私は心ちゃんだもの。麗朔空、最高の曲を作りましょう」
「もちろん! よろしくね、華房さん」


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