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2018/12/19

2018.12.19

 家の裏手には、少し広めの道路がある。まっすぐで、だけど短くて、突き当たりが急な曲がり角になっている。広くて通りやすいが、薄暗くて車通りは少ない。人気もなく、静かで、住宅街であるというのに本当に人が存在するのかと疑いたくなるほどしんとした、そんな道路だ。
 ここはその昔、子供たちの格好の遊び場だった。広くて車通りが少なくて、大人の目が届きにくいから、大人にはちょっと秘密にしたいことは大抵ここに隠されてきた。世界から切り取られた、子供たちだけの世界。日に当たらないこの場所で行われてきた数々の遊びは、賢しく、拙く、そして非常に美しかった。
 そんな子供たちの楽園は、ある日を境に子供たちからさえ閉ざされることになる。
 突き当たりの急な曲がり角。そこにいつ誰が捧げたのかわからない花が落ちていた。元は白かったのだろう、茶色く枯れたその花は、自身の存在と共にこの場所を世界から切り取っていた。かつての楽しかった子供たちの思い出を閉じ込めるように、この道路の入り口に転げられている。
 この花が捧げられた日を境に、道路は世界から切り取られた。稀に通る車を除いて、侵入者さえいない。
 誰も侵入しない、世界から切り取られた道路。時を止めたその聖域に、彼女は一人存在した。時が止められた頃のままの姿で。

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